題名→リップ 作、幸香
とーん とーん とーん
あたしは寝ていた
外から音がする
近所の子供が蹴鞠(けまり)をしている音だ
あたしは貴族の娘として生まれてきた
平安時代に入って1年はたっていた…争いはなくただ貴族は遊んで暮らしていた
農民達は毎日畑を耕す
雨の日は読書をして過ごしていた…
まさに晴耕雨読の状態だった
農民達は平和である今を幸せに生きていた
ある日
旅人がやってきた
なんでも世界一周をする気らしい、その旅人はあたしが見たいろんな人間の中で1番変わっていた、そしてなぜか言葉が通じなかったが
1日と
1日と
過ごす日を重ねるといつの間にかこの国の言葉をしゃべれるようになっていった
そんな旅人を見て母は
『まるで人間じゃあないみたいね』
と言った
この国には何回か旅人が訪れたことがあったがみんな言葉が通じなかったのに
自分はイタリアから来たと旅人は言う
『イタリア?』
『私の国の名前です』と旅人は表情を変えることなく語る
『リップ…チューリップの花を探しています』
『リップ?』誰かが口にして
『リップ?』またチューリップと言えない
『はい!』
あたしもチューリップとうまく言えなかった、それは他の大人達や子供達も一緒だった
『そのリップは花の名前ですか?そんな花はこの国にありません』
旅人は残念そうに、にこっり笑い
『ありがとうございます』
と言った
どうやらチューリップとやらを探していることだけはわかったが
チューリップとうまく言えなかった、誰も…
その旅人は明日にはこの国を出て行くと言っていた
『そのなんたらリップを探して旅をしているんですか?』
あたしは旅人に興味が芽生え聞いてみた
二人きりだった
『いえ、チューリップと言葉にできる人を探しています』
『えっ?』
『私の国の人間しかチューリップと発音ができないので…』
『私の国はとてもチューリップを愛しています』
つづけて旅人がそう言った
何の話が始まるんだろうと
旅人の言葉を待った
『私の国の結界師が死んでしまい…あっ昔の話なんですがね、寿命で死んでしまってもうしかたなかったとわかってはいます』
『結界師の生まれ変わりをさがしてるんです』
旅人はその結界師が親友だったと言って悲しそうにしていた
『私はまだその時12才の子供でした、何もしてあげられなくて』
『結界師か死んだ後、誰もその結界師と同じだけの結界をはることができなくて、どうしょうか困って私が旅人になったきっかけです』
でも結界なんかはっているのは私達の国だけだと、もう世界は平和になったと死ぬ前に結界師は言っていましたが
高齢の大人達が怯えてしまい
本当に結界師の生まれ変わりを探して何人か旅に出されて自分はそのうちの一人なのだと語り
旅人は
次の日、本当にこの国を出て行った
あたしは何もしてあげられず
でも不思議と何も感じなかった
ただ旅人が船に乗り込む姿を
見ていた
END